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シリーズ 愛媛大学農学部出張出前講座 第8回

森林の水源涵養機能と森林水文研究 ―森林の水をいかにして観測するのか―

 
戎 信宏  <Ebisu Nobuhiro>

【現職】 愛媛大学農学部准教授
【主な研究テーマ】 森林の水循環、水源涵養機能、GIS、土砂災害

はじめに

森林の水源涵養機能は、森林の洪水緩和機能、森林の渇水緩和機能を含めた、水源を育む機能として、よく知られている機能である。しかし、またその理解は誤解も多い。ここでは、森林の水について森林水文学(しんりんすいもんがく)の専門的立場から実際の定量的な数量を示しながら解説していきたい。

さて、愛媛県は、南予地域は別として、東予、中予地域は、瀬戸内海気候に属することから、日本の平均降雨量(約1700mm)に比べて、年間の降水量が少ない地域である。そのため、地域住民の水への関心、特に水資源と森林に対する関心は比較的高いと思われる。ところで、人工林の森林管理の仕方によって、森林流域からの流出が、どの程度その影響を受けるのか?それは、人工林の整備である枝打ち、除伐、間伐を適度にすることによって、林地を保全し林地表面の浸透性を高めること、さらに適度にうっぺい率を下げて、不要な枝葉を少なくすることで、林内雨量の増加と蒸発散量(蒸発散量=蒸発量+蒸散量)を減らすことで、とても重要であると考えられる。


森林水文研究における水文観測とは

森林からの水の流れを観測するには、通常、量水観測用の堰(写真-1)を建設して、水量(実際は水位を計測)を長期間観測する必要がある。通常どれくらいの大きさの森林流域で観測するかは、研究の目的にもよるが、流域面積約10ha〜20haの小流域に設けることが多い。次に、降雨量に関しては、一般の気象観測所が用いている0.5mmカウントの自記雨量計(写真-2)を使用する。降雨の降り方は、森林がある山林地では一様ではないので、その設置場所には注意を払う必要がある。これらの観測で、流域への水の入力としての降雨量、出力としての流出量が観測できるが、もう一つの出力である蒸発散量が未知量で分からない。そこで近年では森林からのH2O/CO2を計測する目的で、森林フラックス(流束)観測が多くの研究試験地で実施されるようになった。この観測は、樹高より高い観測タワーを建設して気象測器群を設置することで、熱フラックス、水蒸気フラックス(蒸発散量)、二酸化炭素フラックスを計測するのが一般的である。つまり、近年の森林水文研究では、降雨量、流出量、蒸発散量の三つの要素、いわゆる3点セットを観測することがきわめて重要になっている。さらにこの観測を長期間(10年以上の長期観測は研究的価値が高い)継続することによって、正確な水源涵養機能の評価ができることになる。


研究室の森林水文研究で解明されてきていること

現在、共同研究(地域環境水文学・高瀬研究室)として大洲市内に森林水文試験地が3カ所あり、それらの試験地で降雨量と流出量の観測が実施されている。この3試験地の植生は、スギ・ヒノキ人工林(整備林、未整備林)と広葉樹と針葉樹の混交林である。ここでは、これらの試験地をA試験地(整備林:観測期間8年)、B試験地(未整備林:観測期間2年)、C試験地(広葉樹・針葉樹の混交林:観測期間25年)と呼ぶ。流域面積は約10haから約20haである。森林観測タワー(写真-3:高さ約36m)は、A試験地に設置されていて、さらに、相互に比較するために3試験地の位置関係は、大洲市内の約9kmの範囲内にある。

さて、大洲市の年平均降水量は約1600mmで松山市よりやや多い。この降水量に対して蒸発散量は約700mm〜900mmであった(C試験地10年間の降雨量と流出量の水収支式の計算結果による。ここで水収支式とは、降雨量を入力として、流出量、蒸発散量、流域貯留量の変化量に配分される式のことである。)。年のばらつきは思った以上に大きい。これは、その年の降雨量と気象条件(気温、日照、その他)の影響を受けるからである。しかし、これらの試験地では、大雑把に言うと年降水量の約半分が蒸発散量で、流出量はその量と同じ程度であると言える。本来、森林流域では蒸発散量がきわめて多い。その理由は、森林が他の植生(畑、水田、草本)より遮断蒸発量が多いためである。遮断蒸発量とは、降雨が地表面(林地)に到達せずに、蒸発する量である。年降雨量が少ない地域では、森林の蒸発散量が多いことは、水源涵養にとって森林はマイナスの要因を持っていると認識すべきである。

A試験地の森林観測タワーで、森林フラックス観測を実施した結果、森林からの蒸発散量が800mm程度(2004年)であり、水収支式の計算結果とあまり違いがないことが分かってきた。

蒸発散量は、月毎では冬期(12〜2月)は平均約1mm/日(ただし、積雪がある場合は除く)、春期・秋期(3〜5月、9〜11月)は平均約2mm〜3mm/日、夏期(6〜8月)は平均約4mm〜5mm/日である(2004年の森林観測タワー観測値より)。この値は、人工林であるスギ・ヒノキ林の値あり、落葉広葉樹林の値ではない。夏期にこの値が大きいのは、太陽放射エネルギー(日射量)が大きく、気温が高いため当然であるが、冬期にも約1mm/日であることに注意が必要である。このように冬期に落葉しないスギ・ヒノキ林では、積雪がない限り、蒸発散量が零になることはなく、1ヶ月間に約30mmもの水を損失していると考えなくてはいけない。そのため、愛媛県では冬期は降雨量が少ない(松山市で1月約50mm、2月約60mm)ため、この影響は大きいと考えるべきである。

次に、森林観測タワーで気象観測を行うと同時に林内雨量観測を行っている。これによって、年間の遮断蒸発量を推定している。ここで、林内雨量とは、降雨が樹冠の枝葉に遮断され蒸発する水(遮断蒸発)以外の林地に到達する降雨量であり、林内雨量の観測は、樹冠通過雨量、滴下雨量と樹幹流(樹木の枝幹を伝わって流れる落ちる雨水のこと)を測定することで求められる。これらの観測値と数値モデル(樹冠遮断タンクモデル)を用いて2004年から2005年の樹冠遮断量を推定したところ、年約300 mm〜400mmの値を得た。およそ蒸発散量の50%であり、その量はかなり多い。さらに、数値モデルを用いて30%間伐の効果を試算すると、樹冠遮断量が年間約35mm〜44mm減少することがわかった。これには、間伐による蒸散量の減少分は含まれていないことから、30%間伐で40mm以上の減少が期待できる。そのうちの何割が流出量に寄与するかわからないが、年間降雨量が少ない愛媛県では無視できない値と考えられる。

最後に、現在、愛媛県(と水土里ネット愛媛)の協力を得て未整備林の水文観測を開始している(B試験地)。観測結果の例(2009年8月の一部)を図-1に示す。最大15mm/hrの降雨強度時の洪水流出波形を示す。明らかにB試験地の流出は、最大流量が大きく、減水変化の勾配が急であり、水源涵養的には好ましくない。なお、B試験地の未整備林とは、立木密度が非常に高く整備が遅れている森林ではなく、間伐、枝打ち等の管理が長期間、全く実施されていない放置森林である。このように、洪水流出特性の明らかな違いの原因が、森林管理の整備、未成備の差異にあると思われるが、今後データの蓄積を待って、より詳細な解析を行う必要がある。


おわりに

森林水文研究においては、観測は非常に長い期間を要するが、それを欠測なくコツコツと継続することによって明らかになってくる現象が多い。そのため水源涵養養機能の定量化には時間がかかり、まだ未解明なことも多い。今後の研究継続によって、スギ・ヒノキ人工林と落葉広葉樹林の水源涵養機能の違いを明らかにする予定である。


【図-1】A試験地とB試験地の洪水ハイドログラフ
【図-1】A試験地とB試験地の洪水ハイドログラフ
 
【写真-1】
【写真-1】
【写真-2】
【写真-2】
【写真-3】
【写真-3】



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