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森言

私の履歴書
緑の少年団愛媛県連盟 会長
えひめ森林ボランティア連絡協議会 会長
愛媛大学農学部助教授

鶴見 武道
愛媛大学農学部助教授 鶴見 武道

 私は昭和53年から22年間勤めた千葉県立農業高校を退職して、平成12年4月に愛媛大学にやって来た。
 私は森林を守り育てるには、森林所有者によるよい林業経営がなされていることだ、そのためには、経営を続けていけるだけの収入を得ることが必要だと考えていた。
 その一方策として、昭和53年から14年間勤めた君津農林高校では、生徒と共に間伐材の利用拡大や森林資源の新しい利用に関するプロジェクト研究に打ち込んだ。具体的には、地域の関係者を巻き込んで、丸太の家や縁台を造り、炭焼きを行ってきた。
 丸太の家は、昭和60年に千葉県富津市で開催された第9回全国育樹祭会場に展示され皇太子ご夫妻(現在の天皇ご夫妻)が入られて、生徒に温かなねぎらいの言葉をかけてくださった。
 縁台は、昭和63年の奈良シルクロード博覧会会場に10トン車1台の150脚を納めた。博覧会に招待された林業科の生徒は、会場の縁台が間断なく利用されているのを見て満足げであった。また、炭焼きの時に、着火材として用いたヒイラギの葉が見事な炭になるのを発見してから、それをヒントに鑑賞炭を焼く技術を開発した。鑑賞炭はシルクロード博のVIP用記念品として1050点を納めた。安価な木酢液採取装置も開発した。
 これらのプロジェクト研究の成果は、学校農業クラブの大会で発表し、全国大会に5回出場した。生徒は、実験、記録の整理、発表原稿とスライドの作成、発表練習のために1年間で3泊4日の合宿を10回は行っていた。これらを、一般社会人にも公開しようと、生徒が世話人となって、1泊2日の伏せ焼き法による炭焼きを中心とした「自然学講座」を14年間続けてきた。
 この過程で高校林業科の進路状況も大きく変わり、昭和53年に林業関係へ進む者が約1割であったが、創立以来初めて全国大会に出場した昭和58年には約7割に達した。
 このように、生徒と共に学び合う教育現場に浸りきった生活を続けてきたが、やがて転機がきた。それは「管理職」への道を選択するかどうかであった。迷いに迷った結果、そちらの道を選択することにした。そのための転勤。森林・林業現場からの離れ。やがて教頭生活を始めたが、中間管理職の苦しさ。続けられないこともなかったが、その時に愛媛大学から声がかかった。いろいろとあったが、やがて決断。そして、ほとんどこれまで縁のなかったこの地へ赴任してきた。
 愛媛大学では演習林における社会教育の充実をめざしていたので、私はその担当として採用された。
 大学では385haの演習林を舞台として、子どもから大学生、社会人を対象とした森林・林業教育を担当している。
 農学部の新入生全員(約170名)を対象とした必修の演習林実習は、5回に分けて各1泊2日で行われる。その内容は、樹木採集や枝打ち、除間伐の実習と森林の生態や機能、保育に関する講義である。
 実習後のアンケート結果によると参加学生の98%が実習は有意義であった、79%の学生が将来役に立つ、94%が今後もこの実習を続けた方がよいと答え、学生の評価は高い。
 社会教育としては、「樹木博士」養成講座、「竹加工教室」、専門高校教員を対象とした「森林・林業教育研修会」、小学生とその保護者を対象とした、みんなが主役「自然体験」等がある。学生教育、社会教育共に参加者の感動は大きく、中には自然観、人生観を変える契機になったとの感想も見受けられる。寝食を共にしながら班毎に炭焼きをするといった協働作業を通して、友人ができた喜びを述べた参加者も多数いる。
 「ゆとりのなかで生きる力を育む」という教育の大目標に対して、森林を舞台とした教育は大きな貢献の可能性を持っている。
 まだ、愛媛県に来て2年目ではあるが、緑の少年団愛媛県連盟やえひめ森林ボランティア連絡協議会、森林組合、木炭や竹炭の生産者、専門高校関係の方々等との出会いがあり、多くのことを学ばせていただいている。
 私は平成12年4月から「えひめ千年の森をつくる会」の活動を開始した。「千年の森をつくる」とは、現存の森林が更新を繰り返しながら千年後も森林であり続けるようにすることである。したがって、屋久島の千年を超えた杉が生える森林も、全国各地の苗木を植えたばかりの幼い森林も、それを守り育てていこうとする人々がいる限り、ともに千年の森なのである。全国各地の森林を大切に思う人たちによって、必要に応じた千年の森がつくられていくことを願っている。
 平成13年4月から、家内と小学4年生の娘も愛媛にやって来て、川内町井内の標高520mの中山間地に住み、棚田で有機農業を営みながら、未来循環型の生活をめざしている。春には桜、石楠花、夏には蛍、秋には赤とんぼ、冬には周囲の山は白銀の世界となるこの地は四季の変化も豊かだが、天候によって日々刻々と変わる景色はもっと豊かだ。
 森林を守り育てる活動は、資源の枯渇や地球温暖化の問題から、資源的にも、環境的にも絶対的制約下におかれている 21世紀にあって尊いことだが、同時にその活動に参加している人たちは自分の心もいやされているのである。
 私はこの地にやって来てから想像していた以上に忙しいが、仕事も楽しく、自然に対して畏敬の念を持ち、人の心を大切にして、志を高く持って生きる多くの人たちとの出会いに恵まれて、愛媛に来て本当によかったと感じている。


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